こなかがSS そんなこと編

警告!!


このSSには、少々ややこしい事態をにおわす表現があります。
正直R15?位でしょうか。
そういった表現が苦手な方は、ご覧にならないように。
それでも良い!という方のみ、ご覧ください。























「かがみー、ここわかんないんだけどー」
「ああ、これはここを見れば仮定法だって見当が付くから過去完了形になるように単語を選べば良いのよ」
「流石かがみー。私の嫁ー」
「う、うっさい!これ以上からかうならもう教えないわよ!」
「え゛っ、それは困る・・・」
「だったら真面目にやんなさい」
「はい・・・」


私の隣にいて問題をのぞき込んでいたかがみが、自分の宿題をやるために机に戻る。
私は部屋の真ん中に出されたちゃぶ台の前に座り込んでいた。
2月も始め、そろそろ花粉でお父さんが苦しみ出す季節。
受験なんてまだ先の話。今はそこにある自由を満喫するときだと思ってる。


「ねー、かがみー」
「・・・なんか呼ばれてから次に呼ばれるまでのペースが異様に早い気がするんだけど・・・ちゃんと考えてるの?」
「うん。考える前からわかんないからこうして聞いて・・・」
「少しは自分の頭を使わないか?」
「・・・ごめんなさい・・・」


明日の英語の授業までの宿題が分からなくて、かがみに答えを聞こうと思ったら
「見ててやるから自分で勉強しろ」
と言われて、かがみの部屋に連れ込まれてから1時間。遅々として宿題は片付かない。


「これは(4)と同じようなパターンよ。一応それだけ言っておくわね」
「ありがとー。何だかんだ言って、かがみはやさしいなぁ」
「あ、あんたがだらしないのが悪いんだからね!分かったらさっさと考える!!」
「ふぃー」


私はかがみが好きだ。
どの辺までの好きなのかはご想像にお任せするとして・・・でもまあ、多分友達としての「好き」よりもうちょっと好きなくらいかな。
こうしてからかうと赤くなるところとか、何だかんだ言ってやっぱり気にかけてくれてる所とか。
高校入るまでリアルの友達が少なかった私にとって、とっても有り難い。そんな友達。


「ぉ、終わった・・・」
「おー、お疲れー」


机を向いていたかがみが振り返る。私は両手を上げて、そのまま後ろ向きに倒れこんだ。


「長く・・・苦しい戦いでした・・・」
「全然感動できないけど。まあ、良かったじゃない。終わってさ。今ジュース持ってくるから、ちょっと待ってて」
「ぅーっす、よろしく・・・」


かがみが部屋を出ていくと、この閉鎖空間が無性に広く感じられる。
いや、かがみが太いって訳じゃなくてですよ。
なんて言うか・・・私の心の中の、かがみの占める割合の大きさ・・・かなぁ。でも何か違うような気もする。
取りあえず、プリント類を鞄にしまう。この宿題で今日の勉強はおしまい。
早いところ家に帰ってネトゲがしたい。
かがみが戻ってくるまで、私はただなんとなく、取り留めのない考え事をしながら寝転がっていた。


「お待たせー。オレンジジュース」
「飲むー」


腹筋だけで勢いを付けずに起きあがって、目の前のちゃぶ台に置かれたグラスに口を付ける。


「なんか悪いね」
「何が?」
「いや、突然お邪魔になって、宿題手伝ってもらって、あまつさえジュースまでもらっちゃって」
「良いのよ。気にしない、気にしない」
「ごちそうさま」
「早っ!もう飲み干した!?」
「早飲みは得意だよ〜。流石にコーラのペット1.5L一気飲みは出来ないけどね」
「常識的に考えれば当たり前だろ」
「緑茶ペット2Lだったらイケる」
「飲めるのか?!」
「まあねー」


ふふん、と無い胸を張ってみる。貧乳はステータスで、希少価値だから別にこれと言って気にしては居ない。


「じゃあそろそろお暇しますか。夕飯の当番はお父さんだけど」
「じゃあまた明日ね」
「うん」


鞄を手に1階へ。かがみが後から付いてくる。


「わざわざ見送ってもらわなくても良いのに」
「良いじゃない。私の勝手なんだから」


思わず口の端が、ふっ、とほころんだ。
やっぱり私、かがみのこと好きだ。







「おっす、こなた」
「こなちゃん、おはよー」
「おはよん」


翌日、また普段と同じように駅前に集まる3人。


「あ、そうだ。こなた」
「何?」
「昨日私の部屋にペン忘れていったでしょ。まあ、予備のペンとかは持ってるだろうから困ってないだろうと思って連絡しなかったけどさ」
「ん?え、私忘れ物してってた?帰ってから鞄開けてなかったからわかんなかったヨ」
「あんた、あれから一切勉強もしてなかった訳?!」
「こなちゃん、どんだけー」
「だって開く必要ないじゃん。昨日は体育無かったから体操着洗う必要も無かったし。全部置き勉してるから、宿題がある教科のノート以外もって帰らないし」
「でもテストはあれだけとれるのか」
「一夜漬けは得意だからねー」
「ますますどんだけー・・・」
「とにかく、はい!返したわよ!」
「あ、ありがと」


よく分からない会話の後、私の手にペンが帰ってきた。確かに私の持ち物だ。いつもは使わない、予備用のシャープペンシル
確か昨日も使ってなかったハズ・・・


「あ、バス来たよ。乗ろー」
「まったく、ちゃんと勉強しておかないと大学行けないわよ」
「大学ねぇ・・・受験するのかナ?」
「おい」


何か釈然としないモノを感じつつ、私は取りあえず学校へ向かった。






「・・・でなー、ルネサンス期には今でも有名な画家がたくさんおる訳やけど・・・柊。誰か知ってる名前言ってみ」
「え、えーと・・・何だっけフランケンシュタインみたいな名前の・・・」
「ハァ?」
「あ、そうだ!ミケランジェロ!!」
「どないしたらミケランジェロフランケンシュタインになるんや・・・」


1限の世界史の間、私は昨日のかがみの部屋での出来事をつぶさに思い返していた。
ほぼ一問ごとに私に呼び出されていたかがみはどうだったか。私が下向いてばっかりだったから今一よく覚えていない。
ペンケースに注意を向けていなかったから、なぜ昨日使ってもないペンがかがみの手に渡っていたのか、全く訳が分からない。分かる奴が居たらここに来い、そして俺に説明しろ!


「でな、サン・ピエトロ大聖堂ってのがあるんや。教科書133ページの右上の写真な」


もう一度、しげしげと返してもらったペンを眺める。


「・・・・・・?」


クリップ部の裏側に、短いがその割に太くて少しちぢれた紐状の物が付着していた。
爪を入れてひっぺがす。何かが糊になってくっついていたのか、はがれた一部を引っ張ると簡単に全部はがれた。
・・・これって・・・
分からないことはない。ただ、それが『そういうものだ』というのが信じられなかった。
どんどん心拍数が上がっていく・・・


「泉!」
「は、はいぃ!」
「何を動揺しとるんや?ほれ、これは誰や」


黒井先生が、黒板に貼られた歴史上の人物の写真を指して言う。


「え、えー、えー・・・」
「昨日『教科書読んどけ』言うた箇所やで」
「た、田代!」
「アホかぁ!」






「で、たんこぶが頭に付いたままなのね」
「いつもより強かった気がするんだけど・・・」
「でも田代って誰なの?」
「私も存じ上げておりません・・・」
「いや、世の中には知らない方が良いものっていうのがあるんだヨ」
「そんなものを授業中に口走る奴があるか」


昼休み、おなじみ2年B組の教室で。
今日の柊姉妹のお弁当当番はつかさらしい。
私は、いつ、例の付着物について言及しようかタイミングを狙っていた。少なくとも昼休みに、つかさとみゆきさんが居る前では出来まい。何とか帰りが二人きりになるとか、そういう状況を作らねばならないのだ。


「ねぇ、かがみ。今日の帰り、ゲマズ寄らない?今欲しい景品があってさ、ポイントが」
「悪いけど今日はパス。家で用事があるのよ」
「えー、つまんないのー」


ブーたれた様に見せながら、内心私は焦っていた。
これ以上かがみと二人きりで話す機会を作る方策がない!
自分のバカさ加減を呪いつつ、しかしどうやったらこんな時の問題解決能力が向上するのかと疑問に思っていると、


「今日の放課後、少しくらいなら時間とれるわよ」


ぼそっ、とかがみが呟いた。
盗み見るかがみの顔が心なしか赤い。
どうやらかがみは私の意図に気付いたようだった。
私は先ほどの呟きに気付かないフリをしつつ、昼休みが終わったらかがみに出すメールの文面を考えた。






放課後、屋上入り口の扉の前に私とかがみの姿があった。
昼休みの後、かがみには
『放課後に屋上の入り口で』
とメールしておいた。
屋上は一般の生徒が入れないようになっているから、入り口に近づくために階段を上ってくる生徒も居ない。
声さえ大きく出さなければ、秘密の会合にうってつけだった。


「・・・で、昨日のペンのこと・・・よね?」
「あれ、かがみが取っていったんだよね?私あのペン使ってなかったし・・・」
「ゴメン!!」


かがみが大きく頭を下げた。


「勝手に人の物盗って・・・ごめんなさい」
「それだけじゃない、よね?」
「!!」


かがみの顔が一気に朱に染まる。
それを隠すかのように、その後の物を隠すようにかがみが顔を俯けた。


「ほ、本当に・・・ホントに・・・ごめん・・・・・・」
「顔上げてよ、かがみ」
「・・・」


まず目に付いたのは大粒の涙。
目に浮かぶのは、後悔と恐怖の色。


「私もね、ショックだった。かがみが・・・私のこと、そんな風に思ってるんだって」
「・・・違うの・・・違うのよぉ・・・・・・・」
「でもさ、それにしたって・・・」
「うぅ・・・」
「そんなに私のことが欲しいの?」
「・・・・・・・」


長い、永い沈黙の時間。
その後、黙ったまま、かがみは小さく頭を縦に振った。


「そんなに欲しいんなら言ってくれれば良いのにさ」
「駄目なの」
「・・・え?」
「そんな、こなたが『仕方ないから』みたいな理由で付き合って欲しくないの!!」
「・・・じゃあ、なんであんなことしたの?」
「そ、それは・・・・・・」
「私ね、怒ってるんだ」
「・・・うん」
「まず、人の物盗んだかがみに、怒ってる」
「・・・うん」
「それから、それを使って・・・うーん、こんな所じゃ言いにくいや。そんなことしちゃったかがみに、怒ってる」
「・・・」
「最後に、真っ直ぐ私にぶつかってきてくれなかったかがみに、怒ってる」
「・・・え?」
「私だってかがみのことは好きだよ。恋愛感情かどうかはわかんないけど。・・・いや、わかんなかった、かな」
「それ・・・どういう・・・・・・」
「だってさ、かがみがあんなことしてくれちゃったのに、私、何だか嬉しいんだもん」


かがみが俯いて、今度こそ完全に沈黙してしまった。エスナで治るのかな。


「私ね、ずっとかがみのお世話になってた、って言うかさ。なんか迷惑かけっぱなしだったじゃん?」
「・・・っ、そんな・・・」
「だからさー、こんなことでも『かがみの役に立てた』と思うと嬉しいんだよね」
「・・・そんなこと・・・」
「嘘じゃないよ、ホントの気持ち。だってねぇ・・・好きな人の前で嘘なんてつけないじゃん?」
「!!」


話していて分かった。よく『雑談から突拍子もないアイデアが浮かぶ』って言うけど、あれと似たような物かも知れない。考えがまとまって、はっきりしてくる感じ。


「私、かがみのこと好きだったんだね」


これで全部納得が行く。この前かがみの家に行ったときに感じた、部屋の広さ。あれは『心の中のかがみの占める大きさ』なんてものじゃない。ただそこにかがみが居なかったから。だから部屋が広く感じられたんだ。
だって成分分析したら『こなたの100%はかがみで出来ています』だもん。そりゃ広く感じて当たり前だよね。


「改めて言うよ?私、かがみのこと好きだったみたい」
「・・・こ・・・こなたぁ!」


かがみが私に泣き縋った。かがみの頭を撫でながら


「行こう、かがみ。みんな待ってるよ」
「・・・うん。でも・・・」
「でも?」
「もうちょっとこうしてて良い?」


はふ、と息をつく。


「もう、かがみは寂しんぼなんだから」
「・・・うん」







「おーっす、こなた」
「おはよん」


いつもの待ち合わせ場所。かがみが一人で私を待っていてくれた。


「遅いわよ、もうつかさ先に行っちゃったんだから」
「でもかがみはこうして私を待っててくれたじゃん」
「そ、そりゃそうでしょ!こなたと会わないと1日始まらないんだから・・・」
「おー、デレたー。やっぱりかがみって可愛いよね」
「う、うるさい!・・・これ!」


顔を真っ赤にしたかがみが、手を突っ込んだ鞄から何かを取り出した。


「・・・えっと、今日って私の誕生日だっけ?」
「バレンタインデーよ!」
「わかってるよ、ちょっとボケてみただけだって。夫婦漫才みたいじゃん?」
「め、夫婦・・・」
「そんなに顔赤くしちゃってー。はい、私からも」


そんな大切なイベント、ゲーム内では忘れ去られても、私が忘れるわけ無いじゃん。


「ハッピーバレンタインデー、かがみ」
「・・・ありがと」
「じゃあ早速かがみの味を堪能と行きますか!!」
「誤解招くような言い方するな、しかも大声で!!」
「かがみだって大声だしてんじゃん」
「・・・ごめん」
「あれ、想像しちゃった?二人の夜の営みを・・・」
「う、うるさーいっ!!」