こなかがSS ムシウタ編

ある日、休み時間に教室で、続きの気になるラノベを読んでいると


「貴女の夢を聞かせてよ」
「ぅのうわっ!!」


突然耳元で声がした。振り向くと、そこにはこなたの顔があった。


「何よ、驚かせないでよ・・・ちょうどそのシーンだったんだから」


しかも声色が恐かったし・・・


ムシウタは私もアニメ見てるよ。うpされた奴だけど。ブロッコリミナル効果は結構笑えたネ」
「おいおい、そういうの著作権とか危ないだろ」


弁護士を目指している関係で、そういう事件については少しばかり調べたことがある。有名ファイル共有ソフトの制作者が、著作権法違反幇助の罪で捕まったことは記憶に新しい。


「だってウチ、WOWOW見られるチューナー無いんだもん」
「そんなことなら私に言ってくれればいいのに。ウチなら見られるわよ」


確かまつり姉さんが、何かの番組を見たいとかで契約していたはずだ。


「おお、持つべき物は友達だね。神様、仏様、かがみ様ー」


手を合わせて、深々と頭を下げるこなた。
恥ずかしいからやめぃ。


「で、何で録画すればいいの?VHS?DVD?」
「VHSでヨロ。明日録画用のカセット持ってくるよ。放送日も明日だし」
「何時からよ?」
「夜中0時ちょうどから。あ、その後のバッカーノ!も録画しておいて欲しいな」
「分かったわ。じゃあ録画しておくわよ」
「ところでかがみ」
「何よ」
「宿題見せて」
「おい」





「はい、これに録って。巻き戻ってると思うけど、一応巻き戻ししてくれると嬉しいな」


次の日の朝、こなたからビデオテープを渡された。


「標準画質で録画してネ。3倍で録画すると目も当てられないから」
「んな言われても分かんないわよ」
「まあその辺は良いや。とりあえずよろしく頼むよ」


よろしく頼まれた。


「どんなアニメなの?こなちゃん」


つかさがオズオズと聞く。どうも原作は読む気にならないらしい。


「多分途中からだとわかんないと思うよ。初めから見てる私ですら途中わかんないことあるし」
「原作読みなさいよ。結構穴を埋めてくれるかもよ。それはともかく、1巻読み終わったんだけどさ、最後、かっこうの正体が分かったときのシーンでは驚愕したわね」


あのシーンは結構ショッキングだった。
こういう言い方すれば、こなたも原作読む気になるかしら。
ところがこなたが至極あっさりと返してきた。


「え、かっこうって薬屋大助じゃないの?」
「・・・あれ?アニメって何処まで進んでるの?立花さんはまだ死んでない?」
「死んでないけど」
「あ、あれ〜?」


カルチャーショックってこう言うこと・・・じゃぁないわよね?





その日、帰宅してからすぐにデッキにテープを放り込んだ。きちんと巻き戻されている。


「えーと、チャンネルは・・・っと」


たしかWOWOWは・・・BSの5chの筈。
パチパチと、チャンネルのボタンを押して、BS5chを探す・・・が


「あれ?」


いつまで経ってもそんな表示は出てこない。


「おっかしーわねー」


またしばらくチャンネルを回してみる。


「うーん・・・」


観念してお姉ちゃんを呼んできた。


「まつりお姉ちゃん、確かウチってWOWOW観られたよね?」
「うん、観られると思うよ」
「このビデオ、そのチャンネルが見あたらないんだけど」
「ああ、ウチはテレビのチューナーでしか観られないから」


「え?」


ってちょっと待って、どう言うことよ?


「ほら、テレビは壊れたからってさ、2年くらい前に新しくしたけど。ビデオデッキは6年くらい前からずっとこれじゃん。古いからBSは観られないのよ」


お姉ちゃんの言葉を聞いて、私は愕然とした。
こなたとの約束が果たせない・・・
しかし、これはどうしようもない。仕方がなかったので、こなたに電話を入れた。





「あ、もしもし・・・こなた?」
『どうしたのかがみ、元気無い声出して』


気持ちが声に出てしまったらしい。


「あ、あのさ。ゴメン。ウチのテレビだったら観られるんだけど、ビデオが対応してなくて・・・」
『うーん、そっか。じゃあ仕方ないね』


普段通りのこなたの声。それが逆に私の胸を苦しくさせる。
今朝、いつもより機嫌の良さそうな声をしていたこなたの姿が、脳裏に浮かぶ。


「ホント、私の勘違いで期待させたりしてゴメン!」
『いーよ、気にしなくて。今まで通りネットに探しに行くから』
「や、それは著作権とか・・・」


私のせいで、友人に前科が付く、なんて耐えられない。特に仲良くしてきたこなたとみゆきには、そういう事があって欲しくない。みゆきに限って、そんなことは無いだろうが、心配なのはこなたである。


『心配要らんよかがみー。現行の著作権法だと、そういうのをうpした人にしか責任がないんだよ』
「でも、去年の11月から、そういうデータを受信した側も罪を問えるように、改正する議論が進んでるって・・・」
『えっ、マジで?!』


ほら、やっぱりニュースとか見てない。


『ま、まあかがみは気にすること無いよ。その辺はコミックでカバー・・・』
「・・・ホントに、ごめん」
『・・・もういいよ?じゃ、また明日ねー。バイニー』
「う、うん。じゃあね」


チン・・・


黒電話の受話器を置く。
私は深々とため息をついた。
その日の夕飯は、殆どのどを通らなかった。




「こなちゃん、おはよー」
「おっはよー、つかさ。あれ、かがみはどうしたの?元気無さそう」
「そ、そんなことないわよ!あ、ビデオ」


鞄から預かっていたビデオを取りだし、こなたに渡した。


「はい・・・録れなくてごめんね」
「いいんだよ、グリーンダヨー!!かがみは気にすること無いさー、それに・・・」
「?」
「・・・ぐずっ」
「!!」


こなたの顔がどんどん下を向いていく。どうしたのだろうと思ったら、こなたが鼻をすする音が聞こえて、私はハッとなった。


こなたの事・・・泣かせちゃった・・・?


「ほ、ホントにゴメン!!私、無責任な約束しちゃって・・・挙げ句の果てにこなた泣かせて・・・私・・・私っ・・・ううっ、ひっく」


罪悪感が次々と湧きだして止まらない。
こなたが何より趣味が好きで、こういうアニメを見られないことが、こなたにとってどれだけ寂しい事なのか。特に考えることもなく引き受けてしまった自分が情けない。


「お、お姉ちゃん?!」
「か、かがみ。違うって!かがみのせいじゃなくって!!」
「じゃあ何なのよぉ!!!」


大きな声が出てしまう。通行人がこちらを振り向いた。


「私は、かがみがそこまでしてくれることが嬉しかったの!!だから涙腺緩んじゃったの!!」


こなたが、それに負けないくらいの声を出す。


「えっ・・・」
「私ね、かがみの事が好きなの・・・恋愛感情だよ・・・友達として好きって事じゃなくて」
「え、こ、こなた・・・何言って・・・」
「だから、かがみが、私のためにここまでしてくれるのが、すごっく、すっごく嬉しかったの・・・だからうれし涙が・・・」
「・・・」
「でもダメだね、そのかがみの事泣かせちゃ、私にかがみを好きになる資格なんて無いよ・・・ぐすっ・・・ゴメン、かがみ、つかさ。今言ったこと忘れて貰って良いから」




「バカっ」




私はこなたに抱きついていた。


「もっと自分の気持ち大切にしなさいよ!私のこと好きなんでしょ!私、まだきちんとあんたから告白の言
葉聞いてないわよ!簡単に物事諦めちゃダメよ!!」
「かがみ・・・」
「私は今までこなたの事、特に仲の良い友達、としか見てなかったわよ・・・でも、あんたの告白で・・・気持ち、変わるかも知れないでしょ!」
「かがみ・・かがみぃ・・・ぅわーん・・・」


このとき、私は、こなたを大切に思うからこそこんなことを言ったのか、はたまた、実は心のどこかでこなたの事が好きだったからこう言ったのか、よく分かっていなかった。
暫く、こなたは私の腕の中で泣き続けた。





顔を赤くしているつかさを連れて、ちらちらとこちらを見ている通行人の目から逃げるようにバスに乗った。
するとこなたがこう言った。泣いて赤くなっている目で私の目を見ながら。


「今日の放課後、かがみの教室で待ってて・・・」


私はこう答えるしかなかった。


「うん」





その日の昼休みは日下部と峰岸と過ごしたが、やたら勘の良い日下部は


「柊ー、何だか何かが待ち遠しいって顔してんな?」


と言ってきた。
そうか、私は



こなたの告白を期待しているのか・・・



「うっさいわね。別に関係ないでしょ」
「お、否定しなかったな!さては新しいケーキでも買うのか?!感想教えてくれよな」
「・・・あー、ハイハイ」





放課後。


「おや、柊がB組に行かないで机に座ってるとか珍しいなぁ。ケーキはどうした?」


最後の授業が終了してから、もう30分経った。
その間、私はムシウタの続きを読みながらこなたを待っている。


「別にいいでしょ」
「あやのー、真夏なのに柊が真冬のように冷たいよー」
「まあまあ、柊ちゃんの事だから・・・」
「じゃあ帰ろっか。おーい、柊」
「何よ」
「チビッコに『負けたぜ』って言っておいて」
「・・・え?」
「じゃあなー」
「じゃあね、柊ちゃん」
「あ、うん。じゃあね」


日下部が言っていたことに多少の疑問を感じたが、私はこなたが来るまでムシウタを読み続けた。
いつの間にか、教室には私一人が残された。





やがて、


「お待たせ、かがみっ」
「遅いわよ」


こなたがC組の教室のドアを開けた。
すでに日は陰り始めており、こなたの顔を西日が直撃する形になる。


「眩しいね。かがみに後光がさしてるみたい」
「ちょうど逆光なだけよ」


こなたは教室の中程まで歩いてきて、ちょうど私と対峙する格好になる。


「じゃあ、かがみ。今朝の続きね」
「どうぞ」


こなたが表情を改めた。思わず唾を飲む私。


「私は、かがみが、好きです」



•••


「•••私と、恋人として、つきあって下さい」


こなたの緊張で震える吐息が、私の鼓膜に届いた。
見ればこなたの足が震えている。


「•••良いの?私で」


ようやく発した私の声も震えていた。


「しかも女同士よ」
「私はかがみじゃなきゃ駄目なの。性別なんて関係ないよ」
「もし、私に好きな人が居る、って言ったら?」
「•••残念だけど、おとなしく手を引くつもり。私はかがみに、かがみにとって一番幸せな道を歩いて欲しいから」
「•••」


しばらく、無言の時が流れた。


私は前に足を踏み出した。一歩、また一歩。
こなたは複雑そうな顔をして立っている。
やがて、私はこなたの隣に並んだ。
とうとう、こなたは顔をうつむけてしまった。


「あんたの夢を聞かせなさいよ」


唐突に私が発した言葉に、こなたは困惑しているようだった。


「私の夢はね•••みんなといつまでも仲良く過ごすの•••特にかがみと一緒に•••私とかがみで一緒に暮らして•••うっく•••私、定職に就いて•••ひっ•••かがみに楽させて、ぐずっ、あげたいなぁ•••本当は誰にもかがみの事渡したくない、一緒にいたい!かがみと一緒に居たいんだよ•••ふえぇぇん」


ぽた•••ぽたぽた•••


こなたの涙が、教室の床にシミを作る。
私はこなたの肩に手をかけた。


「じゃあ、私がこなたに憑く『虫』」
「えっ」
「あんたは秘種一号認定のレア物よ•••大切にしてね」
「•••うんっ!!」


こなたが私に飛びついてきた。涙でくしゃくしゃなクセに、とびっきりの笑顔を引き連れて。






「あ、そうだ。日下部がね、あんたに伝言だって」
「ふぇ?」
「『負けたぜ』だってさ」
「•••じゃあさ、『不戦勝なんて勝った気がしない』って言っておいてくれる?」
「?よく分かんないけど•••良いわよ。そのまま伝えるわ」


翌日、日下部にその旨を伝えると、そのままB組に突撃を敢行した。
一体何がしたかったのかしら?


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