今日のゆうじろうSS

kagiya2007-12-25


テスト後の自宅学習期間。担任か、はたまた教科担当教官から追試や補習の連絡が無いように祈りながらの、つかの間の休息期間、とも言う。
そんなある日でも、あたしは律儀に登校して図書館に顔を出していた。


「こんにちは。寒いですね」
「あー、こんにちは。今日はどうされました?」
「家にいるとついついパソコンとかに手を出して、あっと言う間に5時間と潰しそうで・・・」
「なるほどー。その5時間という時間がまた生々しいですね」
「それ以上はディスプレイを見られないんですよ。目が疲れちゃって」
「そうですか」


司書の先生に挨拶だけして、今日は閲覧室で勉強することにした。司書室だとまた先生と話し込んでしまいそうだからだ。
そろそろ受験だしねー・・・。


「世の中って非情よね、ゆうじろう」


司書室からつれてきたパンダのぬいぐるみ、ゆうじろうを目の高さに上げて声をかける。
「世の中?何それ、美味しいの?」と言いたげな目で見つめ返されたような気がした。


「さて、やりますか・・・」


今日持ってきた教材は、古文のドリル。と、豆腐と尻尾のないネズミの仲間・・・


「あれ?!」


いつの間にか荷物に紛れていたらしい。
今年の誕生日に森さんから貰った、はんなり豆腐の一つと、UFOキャッチャーで取ったカピバラさんのマスコット(紐を引っ張るとふるえるタイプ)が。


「ま、いっか」


二人(二つ?)に頬ずりをして、あたしはドリルに取りかかった。





「もうこんな時間・・・」


1時間程しか経っていなかったが、体内時計がお昼時を告げており、腕時計は12時30分を指していた。
そろそろご飯にしますか。


「オムライスっ、オムライスっ」


今日の昼食は、久しぶりにコンビニで買った。
いつもはお弁当を詰めてくるのだが、あいにくご飯が残っていなかったのだ。
ドリルを抱えて司書室に入り、


「あ」
「あー、来てたの?」
「どうも、こんにちは」

針ヶ谷さんが来ていた。おとなしい顔して、実は図書委員会で(推定)一番のオタクで、小西から「女帝」とも呼ばれるツワモノだ。


「あ、ゆうじろうの他にもオプションが・・・」
「オプションではないのです。偉い人にはそれがわからんのです


豆腐とカピバラさんをオプション扱いされて、少々ふてくされたあたし。
こんな時に、ネタではなく素でこんな台詞が出てくるとか、その辺があたしの末期具合を表している。


「でも可愛いよねー」
「可愛いよねっ!!」


あたしは司書室の電子レンジにオムライスを放り込み、タイマーを合わせて、


「先生、電子レンジ使って良いですか?」
「今度から使う前に聞いてください」
「努力しまーす」


あまり気のない返事を返した。
司書室の電子レンジは、ターンテーブルの無い、新しいタイプだ。ちなみにレンジの下には冷蔵庫、その隣には電気ポットが。


「良いですねー、新しい電子レンジは。スタートボタンとか無いんですね。放っておくとスタートするんだ」
「へー」
「そうなんですよー」


一緒に買ってきたマカロニサラダを展開しながら、オムライスが温まるのを待つ。
と、ドアが開いた。


「こんにちはー。お、先客が」
「閉めてー!早くドアを閉めてぇー!!」


小西がやってきた。流れ込む冷気に思わず叫び声をあげる私。


「天ちゃんは寒がりだなぁ」
「誰だってこれだけ寒けりゃ叫ぶって!ね、先生」
「ううぅ、私はすでに声が出ませんって・・・」
「針ヶ谷さんは?」
「え、少し寒いけど普通じゃない?」
「私は暑がりだから、多分針ヶ谷さんが普通の感覚の持ち主だよ」
「いや、絶対寒い!少なくとも半袖で過ごしてたら30分で凍死する!!」
「それは天ちゃんは痩せ型で、先生は南国出身だからですよ」
「確かに静岡とかは過ごしやすいですねぇ」
「寒いよっ!静岡だって沿岸部は寒いんだからね!伊豆半島の先っぽとか!!」
「何で知ってるの?」
「お爺ちゃん家があるから」


文句は言いつつも電子レンジへ。暖まったオムライスを取り出す。


「はぅー、オムライス暖かいよー」


思わずオムライスの容器に頬ずり。


「天ちゃんはこうして見てると乙女だね」
「こうして見ると、って・・・」


普段は乙女でないのか。
しかし、乙女と言われて悪い気はしない。


「乙女だって、ゆうじろう」
「そうやってぬいぐるみに話しかけちゃう所とか」
「え、可愛かったら撫でちゃったりとか、話しかけちゃったりとか、抱きしめちゃったりとかしない?!」
「しないしない」
「私は撫でるくらいまでならするかなぁ」
「えええ?!」


針ヶ谷さんだって女の子なんだからそれくらいはするもんだとばかり・・・


「せ、先生は?!」
「抱きしめちゃいたくなりますけど、天ヶ崎さんみたいに女の子まで抱きしめたりしませんよ」
「嘘だッ!」


思わずゆうじろうを抱きしめて力一杯叫ぶあたし。
机の上では、先生が紐を引っ張ったのか、カピバラさんがぶるぶると音を立てて歩き回っていた。


「普通抱きしめるって、女の子でも」
「いやー、それは無いって」







「うー、オムライス冷めてきたぁー」
「食べるの遅いね、天ちゃん」
「でもそれでかなり量食べて太らないでしょ?羨ましい」
「あのですねぇ、天ヶ崎さんは私と同じで燃費が悪いんですよ。国産軽自動車じゃなくて高級外車なんですよ」


まだ食べ終わらないオムライスが、早くも冷めてきた。
ちなみに小西は昼食を食べてから来たらしく、針ヶ谷さんは持参のお弁当を食べ終えていた。


「そのお陰でね、肝心なところに脂肪が足りないんですよ」
「そんなに胸小さかったっけ?」
「ちっさいけどね。いや、それよりお尻の方・・・」
「大体いつもスカートなんだから目立たないよ」
「目立たないようにスカートなの」


その点、さっちゃんが羨ましい。決して大きい訳ではないけれど、あの曲線は羨ましいことこの上ない。


「それに針ヶ谷さん・・・」
「?」


同じく図書館のメンバー、中村さん(不思議ちゃん)が
「よっ、巨乳」
と挨拶していく位だし・・・


「な、何?」
「いや、羨ましいだけ。ね、ゆうじろう」


汚すといけないので、ゆうじろうは机の上で腹ばいになっている。頭の上には枝豆豆腐とカピバラさんが。
食べ終わったら写真撮ろう。


「げ、もうこんな時間?!」


思わず下品な言葉遣いをしてしまうような時間を時計は指しており、当然予定していた分の勉強は終わっていなかった。