今日のゆうじろうSS

kagiya2007-12-07


もはやこれだけが唯一の楽しみ。


「らいちゃん、大丈夫?」
「う、うん・・・」


こんな時でも背中をさすってくれるみーちゃんは、やっぱり優しい。
背小さいのに、懸命に背伸びしてくれている姿がもう・・・


「うーん、みーちゃん大好き・・・」
「う、嬉しいけど今はそんな場合じゃ・・・」


あたしとみーちゃんは保健室へ向かっている途中だった。


「あー、ここまでひどいのは初めてだわ」
「どうせ昨日も夜更かししてたんでしょう」


ほっぺを膨らませて叱ってくれる。ああ、みーちゃんが保健委員でホントに良かったぁ。


「ほら、保健室着いたよ」
「ありがとー・・・」





「もう良いの?」
「うん、良くなった。みーちゃんのお陰だねっ」
「も、もう、らいちゃんってぱ・・・」


2時間後、昼休みが始まって少しした頃に、あたしは保健室を出ることが出来た。


「いやー、ホントにみーちゃんの可愛いその御手で背中をさすってくれたお陰でございます」
「じゃあ私も撫でてあげようか?」
「へ?」


バチン


「きゃぁ!!」
「みーちゃん、おっす」
「あー、さっちゃん。ダメだよ、らいちゃん病み上がりなんだから」


あたしの背中を叩いて現れたのは、隣のクラスのさっちゃんだった。
くそー、不覚にも後ろを取られてしまった・・・


「天ちゃんだったら心配ないって。こんなのでくたばるタマじゃないっての」
「だから調子良くないんだっつーの・・・」
「らいちゃん大丈夫?!」
「うん、大丈夫・・・」


カラカラと笑うだけのさっちゃん。あわてて介抱してくれるみーちゃん。
天と地の差があるような友人像の違いだが、実は一番親しいのはこの二人だ。


「私部活あるから。これで失礼するわ」
「失礼よっ、せめて謝って行きなさい」
「じゃあ私の操を・・・」
「いらん!!」
「冗談だって。じゃあ早く良くしなよー」


さっちゃんは手をヒラヒラさせながら去っていった。


「まるで台風みたいな・・・」


他にも台風を擬人化したような人は知っているが、あれともまたベクトルが違う。


「じゃ、じゃあ、私も部活の練習あるから・・・」
「あ、ごめんね、呼び止めちゃって。行ってらっしゃい」
「行ってきまーす」


さて、あたしはご飯にしますか。




「まあそう言うわけで体調が良くなくてですね」
「大変でしたねー」
「『そう言うわけ』って何だよ」
「レディにそう言うこと聞くんじゃないの」


今日の司書室の顔ぶれは、先生、松田、森さん、あたしだ。
それにしても松田が居て小西が居ないとは珍しい。


「慰めてよ、ゆうじろう」
「うわぁ、猫なで声似合わねぇ」
「いいもーん」


松田は結構ズバズバと物を言うタイプだ。
あたしはゆうじろうを抱き抱えたまま、お弁当箱を開けた。


「いっただきまーす・・・・・・む」
「どした?」
「お腹が・・・」


まだ調子が戻ってなかったようだ。飲み込んだご飯が胃で暴れているかのような感触。
まだ口に入っているご飯が、不安で飲み込めない。


「まだ本調子じゃないときに食べたから、胃が驚いちゃったんでしょうね」
「むむむ・・・」
「そう言うときこそゆうじろうに何とかして貰えよ・・・」
「むんむん」


首を縦に振る。何とかして貰いたい。
期待した反応と違ったのか、松田はあきれ顔でハードカバーを読み始めた。
少しずつご飯粒を嚥下して行く。ううぅ、気持ち悪い・・・


「何か食べないと良くないですよ?」
「そりゃそうですけど・・・」
「流動食なら大丈夫ですか?」


そういって先生が冷蔵庫からゼリー飲料を取りだした。マルチビタミンタイプ。


「あ、それなら大丈夫かも・・・」
「はいどうぞ」
「有り難うございます・・・あ」
「どうしたの?」


こんな時でも思い浮かぶことは変わらない。
ゆうじろうに飲ませてみることにした。


「う、持たせられない・・・」
「手が短いから持てませんねぇ」
「どうすれば良いかなぁ?」


と、そこでプーさんのくっついた、普段はお菓子が入っている篭が机の上を滑ってきた。
滑ってきた先には、ハードカバーをめくる松田が。


「・・・」
「なるほど、良い考えですね」


これでゆうじろうもゼリー飲料が飲める。
すかさず写メを撮る。


「・・・あんがと」
「?何か言ったか?」
「なにも」


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