今日のゆうじろうSS
鬱だって何だって可愛い物は大好きです。
「こんにちはーっ、今日も寒いですねー」
「こんにちは。今年一番の冷え込みになるかも知れないそうですよ」
放課後、いつもの司書室。あたしはマフラーとコートを脱いで、近くにあった椅子に掛けた。
「ゆうじろうはあったかそうな体してて良いなー」
ぽふぽふとゆうじろうの頭を叩く。ちょっとザラザラな肌触りが、かじかんだ手にはちょっときつい。
図書館は別棟になっているから、来るには一度外を歩かなくてはいけない。まあ、校舎はボロだから中も外もあんまり変わらないけど。
「ゆうじろうは冬眠とかするのかな?」
「良いですねー、私も冬眠したいですよ。あはは」
「残念ながら人間の体は冬眠できるようには出来てないんですよねー」
栄養を貯めこむにしたって、あたしの体はとことん燃費が良くない。
食べた側からすぐに消費するため、いくら食べても太らない。太れない。
で、背高のっぽなもんだから中沢に「もやしっ娘」とか言われるのだ。
「ううっ、現実をまざまざと見せつけてくれるなっ」
やっぱり先生は可愛い人だ。
泣き真似がまたおもしろい。
「この後塾なので、30分くらいで失礼します」
「解りました、どうぞー」
私が閲覧室で勉強しないのは訳がある。
一つ。閲覧室の椅子は堅くて座り心地が悪い。
一つ。司書室は人が居ないから、声が出る語学教材がおおっぴらに使える。
一つ。何より居心地が良い。
「さぁて、単語覚えなくちゃ」
「ぬおー、覚えられた気がせぬわー・・・」
30分後、あたしはゆうじろうを枕に突っ伏した。
ゆうじろうが「おもい」とでも言いたげに見えたが、可愛いのでそのままにする。
と、先生が司書室に入ってきた。
「どうですか、はかどりましたか?」
「まぁ、普段に比べればはかどりましたが、一般的な基準からすれば、はかどっているようには見えないでしょうね」
「あらまぁ」
喋りながらも荷物を作る。
ノート類が多いせいで、詰め方を工夫しないと荷物が入りきらない。
「あぁ、また寒い外気に触れねばならんのですか」
「そうですね」
「あ、そうだ」
良いこと考えたっ。
首に巻きかけていたマフラーを外して、ゆうじろうに巻く。
「きゃー、可愛いぃー」
「網笠があれば『さすらいのゆうじろう』とか出来そうですね」
「マフラーの色が色だしね」
「んじゃ、ま、記念に」
こうしてまた愛機・W-zero3の内部メモリの空き容量が300KBほど減ったのだった。
「あと9MBしか無いよ?!メールとかやってたらすぐ埋まっちゃうよ?!」
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