今日のゆうじろうSS

「おっす、おひさー」
「おー、久しぶりだね
半年ぶり?」
「いや、それ以上」


いつものようにニコニコを見てると、突然メッセのウィンドウが開いた。相手は


「だって礼菜は私に連絡くれないじゃーん」
「だってさっちゃんに連絡する用事も特にないし」
「ぅわー、ひでぇー
あ、そうそう
歌ってみた動画うpしてみた」
「え、マジで?」
「まじまじー
sm○○○○○○」
「どれどれ」


確か、前に録音の仕方だとかを教えたはずだが、自分で動画まで作れるようになるとは。
とりあえずアドレス欄にコピペ。最近、プレミアム会員じゃないと自動的に再生されなくなったことに悲壮感を感じつつ、再生ボタンをクリック。



・・・



「しょぼっ!」


思わず口に出して吹いてしまったではないか!
何というか、全体的にしょぼいのだ。
映像はビデオカメラで撮ったのだろう、見覚えのある部屋に、見覚えのある人の顎から下が映っていた。紺色のトレーナーに、下はジャージ。高1の頃から、冬の標準装備だってのは知ってたけど。
おまけにBGM(曲のOff Vocal版)の音量が小さすぎて、聞こえてくるのはさっちゃんの声とビデオカメラの駆動音だけ。
アップロードから1日経っているにも関わらず、コメントは一人目が書き込んだ「1」のみ(多分これもさっちゃんの自演だろう)。新着からもうちょっと人が来ても良さそうなものだが、サムネイルが悪い。録画開始のボタンを押して、カメラから離れている途中の様子がサムネになってるんだもん。
すぐさまウィンドウを切り替え、キーボードを叩く。


「しょぼすぎ吹いた」
「ええっ、そんなにしょぼいか?
(´・ω・`)」
「吹くほどしょぼいわよ
曲の音が小さすぎて聞こえないじゃない
他にもツッコミ所満載だけどいちいちつっこんでると疲れるからしない」
「そんなー」
「まー、誰でも最初のうpなんてこんな感じじゃない?」
「orz
 o...rz
 o... rz」
「どこまで転がすつもりよ」
「えー、ちょっと戻してよー」
「ノシ       Σ...orz」
「thx
じゃあ曲が小さいってことは、声も聞こえなかった?」
「さっちゃんの声は聞こえた。息のボソボソっとしたのがたくさん入ってて不明瞭だったけど」
「mjk
今度撮り直そ・・・」
「てか自分で撮ったビデオくらい見直しなさいよ・・・」
「興奮に駆られてつい速攻でうpしちゃった」
「興奮しすぎwwww」


相変わらずだ。さっちゃんはどこか抜けている。


「そういえば
最近どーよ?」
「どうって言っても・・・フツー?
ウチの学校ゲームとかやってる人多いから、『みんながやってて欲しくなったからゲームを買う』ってのじゃなくて、『話を合わせるためにゲームを買う』ってのを経験したくらいね」
「なんという本末転倒」
「そんな感じで今3本積みゲー中。正直ゲームよりプログラム組んでた方が楽しいし」
「ヒッキーしょうzy ゲフンゲフン」
「ヒッキー言うな
そういうさっちゃんは?」
「最近ダンスの練習とか始まっちゃってさー。何で声優目指してんのにダンスしなきゃいけないの? とか思ってるところ」


そういえばさっちゃんは、憧れの声優になるべく専門学校に進学したんだった。


「声優だって俳優業の一種なんだから、表現の幅を広げるためには必要なことなんじゃないの?」
「いやぁー、そう言われても頭じゃわかっちゃいるんだけどねぇー」
「ステージとかで踊るかも知れないし」
「礼菜」
「ん?」
「私は今マキシムトマトを食べたような心持ちだよ」
「はいはい」
「無敵飴ならなお良かった」
「これ以上あたしに何をしろと?」


要するにやる気になったんだろう。結構単純だ。


「あとそうね、変わったことと言えば、薪ストーブに火を入れたかな」
「へぇー、何でまたそんな乙な物が礼菜の家に」
「誉めてんの?けなしてんの?」
「誉め言葉だって」
「誉め言葉としての使い道間違ってるわよ
でね、焼き芋しようとしたのよ。サツマイモを濡れ新聞とアルミホイルで包んでさ。火の中に入れておいたの」
「ほほぅ」
「しばらくして出そうと思って、薪をどかしてみたらさ
ど  こ  に  も  な  い の」
「消えたサツマイモの謎 〜引きこもり捜査官 天ヶ崎礼菜?〜」
「火スペみたいなタイトル付けんでよろしい
で、すぐ薪も燃え尽きちゃって灰しか残ってなかったのね。それから灰の中を火掻き棒でかき回してたら、見つかったのよ
酸化して白く曇ったアルミホイルの一部が!!」
「文字通り灰になってしまったわけですな」
「そゆこと・・・
後でやり直したわよ。美味しかったから良かったけど」
「貴重な糖質を残らず灰にしてしまうとは・・・MOTTAINAI!」
「文字だからイントネーションは気にしないことにするわ」
「ワンガイ・マータイさんだっけ」
「ググれ
以上」
「前にも確かこういう反応されたなー。さっちゃん悲しい
何より礼菜の胸を触れなくなったのが一番寂しいけどな!!!!!1!!」
「声優志望の専門学校なら女の子いっぱい居るんじゃない?」
「いや、私みたいな性格の人が多くてねぇ。なんかもう、揉まれて当たり前、みたいな。挨拶代わりに揉む、みたいな」
「そんな変態スクールあたし行きたくない」
「じょーだんだって
女子限定だよ。男は触ってきたらみんな殴られてる。グーで」
「女子限定でもやるのかwwwww」
「あおっと、オッカアが呼んどるけん、これにて失礼」
「もうこんな時間・・・宿題ヤッテネ」
「\(^O^)/
こんなときには『そおぃ!』だ」
「宿題投げ出したら単位が大ピンチ^q^ wwww」


と、そこでさっちゃんがオフラインになってしまった。


「返事くらい返してから切りなさいよ、まったくっ」


ちょっと怒りながらニコニコ再開。我ながらダメ人間コースまっしぐらだ。
久々に懐かしい人と話をした(メッセだけど)気がする。そういえば図書館のメンバーは、今どうしているだろうか。
小西と露木には夏のコミケで会ったけど、針ヶ谷さんはブログの更新のみ補足中。他の人たちは音沙汰無し。まあする気があっても、めんどくさいから、とかって理由でやらなさそうなメンバーだし。これで良いのかも知れない。
先生とは、5月くらいにメールをした。その時のゆうじろうの写真があったはず。


久しぶりにディスプレイに呼び出された写真に写ったゆうじろうは、なんだか怒ったような、寂しそうな、複雑な表情に見えた。