今日のゆうじろうSS

「ぐはぁっ、ダメだっ!死んだっ!」
「お疲れさまー」


テスト最終日。
本日は晴天なり。心の中は土砂降りなり。


「出来た気がしない!特に数学?っ!!」


机の上のゆうじろうの上に、ゆうじろうと同じ様な格好でのしかかる。
ゆうじろうが「むにゅっ」と言った気がする。


「ああ、ゆうじろうが潰れちゃう」
「はっ。ごめーん、ゆーじろー」


力の限り抱きしめられるゆうじろう。
肌触りは余り良くないが、抱くのに丁度良い形してるのだ。


「今日はどうしたんですか?」
「先生、聞いてくださいよ!数学がですね・・・」


今回、ちょっとショックなことがあってテスト勉強が先延ばしになっていて、当日の朝まで問題集etcに手を付けていなかったのだ。
結果、問題用紙の半分位が真っ白。


「洗いたての白さですよ?!柔らかくは無いですけどね?!」
「せめてゆうじろうの様に柔らかければ救いがあったんでしょうけれどね」
「ゆうじろうよりはんなり豆腐の方が柔らかいんですけどね」
「あらまあ」


しかし、ゆうじろうは筑波のゲーセン(UFOキャッチャー)出身で、キャラクターも特に決まっていないのだ!
即ち。


被写体にしやすい。


「だから毎日のように写真撮っちゃうんですよ」
「確かにゆうじろうには表情がありますよね」
「役者なんですよね」
「被写体慣れしてますね」


コンコン


ドアが軽い音を立てた。


「失礼しまーす。あ、天ヶ崎ここに居たんだ」
「居るけど」


入ってきたのは、同じクラスの露木だった。
あたしとはオタク仲間で、兎に角変わり者だ。
まず名前が変わっている。戦国武将のようで、「露木 信吉」という。なんか日本統一してくれちゃいそうな感じがする。
しかし将来の夢は世界征服ではなく「マッドサイエンティストになること」。同窓会の時、サイボーグになってそうでコワい。


「あ、そうそう。ブログ読んだけど。あのSSは何処に転がしてくの。得意のGLにでも?」
「と、得意って・・・まあ女×男より全然絵になると思うし、女の子可愛いし、あたし自身男好きじゃないし・・・」
「それじゃ得意になっても仕方ないな」
「仕方ないの?!」
「それはそうと、くーみん来てない?」
「針ヶ谷さん?来てないけど」
「ふーん」


あの二人もオタク仲間だから、多分次の企画でも考えてきたのだろう。カラオケとかさ。
露木はソファーにどっかりと腰を下ろし、閲覧室の書架にあった科学雑誌を広げ始めた。
今月のトピックは次元論。ひも理論とか言われてもよくわかりません。


「宇宙って12次元位あるの?」
「いいや、11次元だよ」
重力子(グラビトン)って観測出来そうな気配あるの?」
「さぁ。今のところそんな話聞かないけど」


将来マッドサイエンティストだけあって、流石に科学分野に明るい。
感心していると、ちょいちょいと肩をつつかれた。先生だった。


「ブログあるんですか?」
「え、ええ、まぁありますけど」
「GLなんですか?」


ぶふっ


ちょっ、先生、顔がニヤニヤしてます!


「ま、まあ、そう言うことになりますね。ジャンルは・・・あ、でも秋に見せたようなSSもありますし!今書いてるのも『日常ほんわか系』ストーリーです!」
「そうなんですか」
「そうなんです!」


じ、GLかぁ・・・ぁ?
確かに女の子×女の子の話が好きではあるけれど・・・
ブログに公開できない所(年齢的に)まで行った作品は書いたことがない。
もしかしてそこまで行かなくともGLなのか?
ごまかせたか、ごまかせてないか微妙な所へ、丁度小西がやってきた。


「こんにちはー。今日も暑いですねぇ。暖房なんて切りましょうよ」
「ダメっ!切ったらダメっ!!」


小西はとんでもない暑がりで、冬でも半袖で過ごす。
異常でしょ、色々。特に金銭感覚とか。
先生が、暖房の主電源に指を伸ばす小西を止めにかかる。


「唯でさえ寒いんだから、切ったら私たち凍え死んじゃうよ」
「あれ、天ちゃん居たの?」
「居たわよ最初から!・・・あたしそんなに影薄い?」
「薄いねぇ。良いじゃん、薄幸の美少女で」
「その薄幸消して!」
「おっす」
「おー、露木も居たのか」
「最近どうよ」
「いやぁ、ボチボチだよ」


彼のこの台詞を字面通りにとってはいけない。絶対(あたしと比べたら)羽振り良いもん。
先生が閲覧室へ出ていき、お弁当を広げながら小西が言う。


「この前秋葉原行ったらさ、目当てのゲームだけ買って帰ろうとしたんだよ。そのゲーム8000円位なんだけど。お店出たときには、その3倍弱くらいのお金を使っていたよ」
「どんだけ?!」


どうしたら2万円超の金額を衝動買い出来るんだろう。
露木が雑誌から顔を上げる。


「ん?何のゲーム?」
「ギャルゲー」
「あー、小西はその手のギャルゲー数え切れないほど持ってんのよ」
「何本くらい?」
「数えてないからなぁ。50・・・いや100越えてるかも」
「ふーん。とりあえずP2P厨は死んで良いよ」


うぐっ、ドぎついお言葉っ・・・
そう言えば露木のネットの友人が「ギャルゲー買うために食費削ってる」とか言ってた、って言ってたなぁ。


「小西はP2Pなんて知らないんじゃない?」
「なにそれ」
「え、違うの?」


露木も流石に疑問を持ったらしい。ギャルゲー100本なんて、下手すれば100万円に届きかねない金額だ。



「全部買ってきたけど」
「え、マジでぇ?!」
「悔しいけど全部ホントよ・・・」


多分小西の懐は底なしなんだろう。あたしの懐は底が見え見えだけど。
でも可愛い物は別!ぬいぐるみとかはすぐに気に入った物があると買ってきてしまう。


「あ、おにぎりだ。サンドイッチにしてって言ったんだけどなぁ・・・」
「トランプやるため?今日は3人しか居ないから大貧民(富豪)出来ないけど」
「あれ?俺も頭数に入ってた系?」
「でも一度あの手軽さに慣れたら止められないね。サンドイッチ伯爵は偉大だよ。あ、先生。みかん食べます?」
「はい、食べますっ」


露木の疑問をさらりと受け流し、司書室に戻ってきた先生に声をかける小西。小西の持ってくる果物はおいしいらしく、果物好きの先生は毎日これを楽しみにしている様だ。


「天ちゃんも要る?」
「貰える物は貰う」


これがあたしのポリシー。・・・単なるケチ、とかそう言うこと言わない。


「あー、そーだ」


ここの所、ゆうじろうの撮影を始めてから、何か小道具が増えるとすぐに撮影のアイデアが浮かぶようになった。
プーさん付きの篭を持ってきて、ゆうじろうとみかんで・・・


「先生っ、先生っ」
「にゃんでふか?」


先生、口がモゴモゴ言ってます!


「見てくださいよ。題して『お預けを食らうゆうじろう』」
「やー、可愛いー。でもなんかかわいそうですねぇ」
「ゆうじろう、食べる?」


ゆうじろうの口元にみかんを持っていってみたりする。
今日のゆうじろうは、何だか物欲しそうな目をしているように見えた。