こなかがSS 16話からインスパイア編

「いらっしゃいませ、ご主人様」
「うわっ・・・」


こなたのハルヒ姿に色々な意味で驚いて、思わず私は身を引いてしまった。




こなたからお店についての説明を受けて、こなたって平野綾みたいな声出せるんだー・・・と思っていると、みゆきとつかさが話を始めた。


「さっきはビックリしちゃったー。突然声かけられるんだもん」
「あの様な方がこの辺りには多いのでしょうか?」
「絶対ウチの近所より多いよ!だっていっぺんに二人も声かけてくる人が居るんだよ?でも何で私なんか撮るんだろう?ゆきちゃんの方が絶対可愛いと思うのに」
「たぶんつかさのそういうオドオドしたところとかが可愛かったんじゃない?突然カメラを向けてくるなんて、良い趣味してるとは思えないけど」


この妹は、どこか自分を軽く見ているところがある。折角の魅力を潰すようなことはしたくないので、フォローを入れた。


「そうですよ。かがみさんの仰る通りです。つかささんは素敵な魅力をお持ちじゃないですか」
「そ、そう・・・?ありがとう!」
「そうよ、この顔。その笑顔があれば魅力満点じゃない」
「う、うん・・・」


つかさは顔を赤らめて俯いてしまった。


「あ、しまった。こなたにレシート渡して無いじゃん」
「次に品物を持ってきてくれる時に渡しましょう」
「本の方もね」
その内、たわいもない話へと話題は移っていった。





「待たせたわね。注文の品よ」
「やっぱり疲れる店だな」
「それが仕様なんだって。有り難く受け取りなさい」


切り替わりが早いというか何というか。スムーズにこなたの眉毛が上下するのを内心微笑ましく思いながら、私はお茶をすすることにした。


「あ、そうそう。こなちゃん、頼まれてた本」
「ありがとー。欲しかったんだけど時間無かったんだよねぇー。あ、レシートは?ちゃんとスタンプ貰ってきた?」
「心配しなくても、ホラ。それより、立て替えたお金ちゃんと返してよね」
「かがみんが立て替えてくれたの?!いやぁー、嬉しいねぇー」


たはー、と言いながらこなたは目を細めて頭を掻いた。そんな動作一つ一つに胸の高鳴りを感じてしまう。
ああ、やっぱり私、こなたに惚れてるんだ・・・
と再確認させられる。


「それより、あんた。あの地図は何なのよ?みゆきがいなかったら秋葉原の町をさんざん歩き回る羽目になってた所よ」
「ただの地図には興味ありません」
「こら」





またしばらくすると、再びこなたがやって来た。


「今からステージやるから見ててよ!」


こなたが出るなら言われなくても見に行くだろう。
何をやらかすのか不安だったが(まあコスチュームから大体分かるけど・・・)、内心に期待を抱えつつステージを向く。



ダンスの間、下手に元ネタが解る分だけ顔がひきつりっぱなしだったが、やっぱり


「うまーい」
「お上手ですね」


二人の言う通りだ。
踊り終えた後の達成感溢れるこなたの顔がまぶしくて、思わず笑みがこぼれた。
するとこなたが、みくる役で踊っていた娘を連れてきた。


「この子、ウチの学校の留学生」
「ワタシの名前は、パトリシア・マーティンです」
「私たちCDも出してるんだよ。ホラ!」


そこには『コスって!オーマイハニー』と書かれていた。


「っていうか、出して良いのか。そんなもん」


思わず本心とは正反対の台詞が口から飛び出て、内心ハッとなる。こなたが歌ってるのよ。欲しいに決まってるじゃない!


「んー?自費出版じゃないけど、最近はこういう事も出来るんだよ」
「でも確か、そういうサービスは結構高額なものだったと思いますが・・・」


みゆきの心配はもっともだ。まさか変な仕事に手ぇ出したりしてないでしょうね!と、若干不安がよぎる。


「そんなこと無いよ。自分達で録音して、パソコンで編集して、CDに焼いて、ここの店に置いて貰ってるだけだもん」
「へぇー、こなちゃんすごーい!私そんなこと出来ないよ」
「じゃあ、売ってるって、この店だけなのね」
「いやいや、その内レコード会社の人の目に付いて、全国のCDショップの店頭に並ぶかもよ〜。そのうちTV出演しちゃったりとか!」


一瞬、脳裏にテレビ出演するこなたの姿が浮かんだ。
こなたの歌が、いや、こなたがみんなの物になって行く・・・


「そ、そんなのダメよ!」


そう思うと、身を乗り出してこう口走っていた。顔が一変に赤くなる。


「かがみさん?」
「お、お姉ちゃん?」
「What?」


みゆきもつかさもパトリシアさんも怪訝そうな顔で、こちらを見ていた。


「えー、何でー?」
「え、い、いや、だって・・・」


頬を掻きながら、目を泳がせて椅子に座り直す。
すごく寂しい感じがした。だって・・・


「だって・・・こなたが・・・離れて行っちゃうみたいで・・・こなたは・・・私だけの・・・」
「・・・かがみ・・・」




「ん?」


突然私のポケットに入っていた携帯が震え始めた。
誰?こんな空気読まないタイミングでメールとかしてくるのは?かがみにどう声を掛けたらいいのか分からなくて困ってるときに。
幸い、かがみは俯いていてこっちを見てない。
サッとディスプレイを開いて、決定ボタンを押す。
・・・
私はすぐにディスプレイを閉じて、携帯をポケットに放り込んだ。




私は俯いていた。この顔はこなたに見せたくない。今にも涙がこぼれそうだ。
突然、こなたが私の両肩に両の手を乗せた。


「な、なによ」


すると、こなたがこう言った。わざわざ声色を変えて。


「実は俺、ツインテール萌えなんだ。あのときのお前のツインテールは反則的に似合っていた」
「!」
「ん」
「!!」


突然こなたが・・・キスをしてきた!涙が溢れて止まらない。


「あ・・・あ・・・」
「ゴメンね、かがみが私の事そんな風に思ってたなんて知らなくって」
「・・・もう・・・あんたは鈍いんだから・・・」


そうして暫く、私はこなたに抱きついて泣いていた。





「ふぅ、良かった」
「どうかしましたか?つかささん」
「何でも無いよ、ゆきちゃん。ちょっと向こう行こう?」





気が付くと、周りの人たちは居なくなっていた。気を使わせてしまったらしい。

「かがみん」
「・・・何?」
「そろそろ・・・私、仕事もあるし」
「そ、そうね。ゴメンね。営業妨害みたいになっちゃったわね」
「悪いと思ってる?」
「うん・・・ごめんね」
「じゃあちょっとこっち来て」
「えっ・・・」


こなたに手を引かれて向かった先は、この店の衣装室だった。おもむろに脱ぎ始めるこなた。


「ちょ、ちょっと、こなたっ」
「んー?別に『体で払って貰いましょうかー』っていうんじゃないよ」
「あ、当たり前じゃない!な、何で脱いでんのよ・・・」
「この服が今これ一着しか無いから」
「へ?」


こなたが脱いだ服を私へ放った。思わず受け取る。


「それに着替えて」
「はぁ?何でよ」
「『悪いと思ってる』んでしょ。営業妨害みたいで」
「あ」


そう言えばさっきそう言ったっけ・・・


「そゆこと。しばらく働いて貰うよ?」


しかし疑問はこれだけではない。


「で、でも、何で私がハルヒなのよ!」
「さっきの台詞ー。かがみんがハルヒの台詞言ってたじゃん」
「え、そ、そうなの?」


確かそんな台詞だったような気が・・・あんまりしない。


「今度DVD貸すからキチンと勉強するように」
「は、はい・・・」
「じゃあ早く着替える!」


見ると、もうこなたはどこかで見たことのある様な男物の制服を着込んでいる所だった。


「は、はい!」




「わぁー、お姉ちゃんすごーい」
「お二人とも良く似合っていますよ」
「かがみさんモ、このオミセでウマくやっていけますネ」
「うんうん、私が見込んだ通ーり」
「・・・あんまり褒められてる気がしないわね」


今、こうしてみんなの前に立たされている。褒められている気がしないのは事実だが、悪い気分はしない。


「おい、ハルヒ。いい加減注文取れよ。お客さん待ちくたびれてるだろ」


と、声色を変えたこなた。


「うっさいわね、分かってるわよっ」


もう顔が赤い。以外と、自分以外の誰かの役を演じるのは想像以上に難しい上に恥ずかしい。


「ご、ご注文は何に致しますか?」
「違うだろ。そこは『何モタモタしてんの?さっさと注文しなさい』だろ」
「な、何モタモタしてんの・・・さっさと注文しなさい」
「声が小さい!」
「何モタモタしてんの!さっさと注文しなさい!!」


思わず大声になってしまった。しまったー、みゆき達引いてるだろうな・・・


「おおっ、上手い!」
「お上手でしたよ?」


へ?へ?
予想外の反応だった。


「すごーい、お姉ちゃん。えーっとね、じゃあクリームソーダください」
「では私はレモンティーを」
「だ、団長命令よ!待ってなさい!」


さっきこなたが言ってた台詞をそのまま言ってみる。
裏方に引っ込むと、こなたが声を掛けてきた。


「んー、あともう少しハルヒっぽさが出てれば良いかな?」
「そんな初心者にハードルの高いこと言わないでよ・・・あー、恥ずかしがった」
「ダメだよかがみん。コスプレは恥ずかしがってちゃぁ、出来ないんだよ?もっとそのキャラになりきるの」
「なかなか難しいわね・・・」
「じゃあその辺は、かがみんの私に対する愛情でカバー」
「!」


また顔が赤くなる。今日は頭に血がいきっぱなしだ。


「なんかもう、その愛情でそのキャラを召喚しちゃう勢いで!」
「無茶言うな!!」
「愛さえあれば、何でも出来そうな気がしない?」
「う・・・愛さえあれば・・・」


この格好で恥ずかしいとは言え、こなたと今こうして同じ事をしている・・・ときめかない筈が無いじゃない・・・


「だから、かがみん。もう少しがんばろ?」
「・・・こんな時に優しい声出すなんて・・・反則よぉ・・・」
「へへへ、私って罪深い女?」
「とってもね・・・さぁ、やろうか!」
「その意気だよ、かがみん」




結局、こうして私たちは閉店まで一緒に働いた。つかさとみゆきには、待たせるのは悪いから先に帰って貰った。
帰り道。


「こなた!」
「なーに?」
「あ、あのさ、その・・・手!・・・繋ご?」
「いいよ」


握ったこなたの手は以外と冷えていた。


「どうしたのよ?こんなに手冷たくして・・・」
「冷たいドリンク注文する人が多かったからね。今日暑かったし」
「・・・こなた」


私は目を細めて、もう片方の手を添えた。


「じゃあ、私が暖めてあげるわよ」
「ありがと、かがみ・・・」
「?」


尻すぼみなこなたの言葉に疑問を覚える。コスプレだって恥ずかしがらないこなたの事だ。まさか、手を繋ぐのが恥ずかしい、なんて言わないだろう。


「どうかしたの?冷えて体調が良くないとか?」
「ううん。あのね・・・」
「・・・何よ。言いたいことははっきり言いなさいよ」


気になるじゃない・・・


「かがみ。私もかがみの事好きだよ」
「!!」
「出来ることならさ・・・一緒にコスプレとかしたいな・・・って思ってたんだ」


私からだとこなたの横顔しか見えないが、それでも赤くなっているのが解る。こなたが・・・照れてる・・・


「だからさ・・・一緒にバイトしない?」
「・・・ばか。当たり前じゃない」


惚れた弱み、というやつなんだろう。こなたの行くところだったら、どこだって行って良い気がする。


「次のバイトはいつ?予定調整しないといけないじゃない。早く教えなさいよ」
「うん、えっとね・・・」







「どぉ?お姉ちゃんと上手くやってる?」
「うん。それにしても、つかさがあのタイミングでメール送ってくれなかったら、私どうしていいか解らなかったよー」
「私も、あのときこなちゃんがメール確認してくれなかったらどうしよう、って思ってたんだー」
「・・・ねえ、つかさ?」
「なぁに?」
「いつから気づいてたの?」
「んー?秘密。こなちゃんが言ってる『禁則事項』だよ」
「ならこれ以上は聞くわけにはいかないね。・・・じゃあもうこんな時間だし」
「うん、おやすみー」
「おやすみー」


電話を切ると、もう少しでらっきー☆ちゃんねるが始まる時間だった。
ふう。つかさも抜け目無いなぁ〜・・・成績では同じくらいだと思ってたのに。こんなメール送ってくるなんて・・・
もう一度、問題のメールを開き直す。
この前新しくしたばかりの携帯の画面に映し出された文字は


『相思相愛だね♪』


の一言だけだった。


感想などありましたら、右HPメニューの「Webclap」までお願いします。