ゆたみなSS 初詣編

「せーのっ」
『明けましておめでとうございます』
「今年もよろしくな、二人とも」


夜通し起きてると何だか、年が明けた、なんて嘘みたいに感じる。
寝るか朝日が昇るのを見るかしないと、次の日になったのが実感できないのと同じかな。


「それじゃあ年が明けましたので。お父さん、お年玉」
「ちゃんと用意してあるさ。二人とも計画的に使うんだぞ」
「え、私の分も?!」


居候の身分なのにお年玉もらうなんて図々しい・・・
遠慮しないと。


「遠慮せずに貰っておきなよ、ゆーちゃん」
「そ、それじゃあ・・・」


うう、こなたお姉ちゃんも言うんだから、貰っておかないと失礼かなぁ・・・


「じゃあ私、ネトゲの仲間に挨拶周りしてくるよ。黒井先生とか」
「おう、よろしく言っておいてくれ」
「私は友達と初詣に行ってきます」
「そうかい。行っておいで」






元日、私とみなみちゃんで初詣に行く約束をしていた。
本当は田村さんとパトリシアさんも来る予定だったんだけど、しばらく前に田村さんが


「げ、原稿が通ったっす!」


って言ったら、何だかパトリシアさんと二人で有明まで行くことになって、まだ帰ってこない。
何でも「サークルの打ち上げ」らしいけど・・・
何があったのかな?今度会ったら聞いてみようっと。


「あったかい格好していかないとね・・・」


薄いものでも着て行こうものなら、みなみちゃんに心配されちゃう。
心配してくれるのは嬉しいけど・・・やっぱり、人に心配させちゃいけないよね。


「よし、準備OK!」


出発予定の時間まで、まだもう少しある。


「少しくらい早く着いた方が良いよね」


私は家を飛び出した。






「みなみちゃーん」


神社最寄りの駅に着くと、もうみなみちゃんが待っていた。


「ん・・・明けましておめでとう、ゆたか」
「あ、明けましておめでとう!今年もよろしくね、みなみちゃん!」


コート姿のみなみちゃんをこうして見ていると、やっぱり格好いいと思う。
顔立ちがクールだし、背も高いし・・・


「じゃあ、行こうか」
「うん」


並んで歩き出す。
神社の場所は、みなみちゃんが調べてくれていた。
・・・私も調べてきたんだよ?


「あの角を曲がって真っ直ぐだね」


予言通り、鳥居が見えてきた。
すでに、私たちと同じく初詣のために、たくさん人が並んでいた。
参道の両脇には出店もある。


「人いっぱい居るね」
「初詣だから」


列の後ろに着くと、またすぐに新たな参拝客が私たちの後ろに並んだ。


「ゆたか・・・」
「ん?何、みなみちゃん」
「・・・ぅ、ううん、何でもない」
「?」


変なみなみちゃん。
すこしうつむき加減で立っているみなみちゃんの横顔を見ると、何だか少し赤く見えた。
風邪・・・じゃないよね?






おかしな沈黙が二人の間に流れる間にも、列はどんどん進んで、私たちの番になった。
お財布から5円玉を取りだして、お賽銭箱に放る。
二礼、二拍手、一礼。


今年はもっと健康に過ごせますように。
それから、もっとみんなと仲良くなれますように。
みんなが楽しく過ごせますように。


5円玉でこのお願い事は多すぎたかも知れない。
でも、かなって欲しい。
お賽銭箱を離れて、お守りなどを売っている所の近くにさしかかった。
売り子の巫女さんが、柊先輩に似ていた気がする。


「ゆたかは、どんなお願いしたの?」


みなみちゃんの問いかけ。


「えーとね、『今年はもっと健康に過ごせますように』・・・と、『もっとみんなと仲良くなれますように』。それから『みんなが楽しく過ごせますように』・・・5円玉しか入れてないのに、欲張りなお願いだよね」
「でも、神様はお金で願い事を叶えるんじゃないから、お賽銭はいくらでも大丈夫、って聞いたことがある。それに、ゆたかのお願いの2つは『みんな』が付いてるし、周りのことが考えられるゆたかのお願いだから・・・叶えてくれるよ」
「そ、そっか」


なんだか嬉しくなっちゃう。
みなみちゃんの言うことだったら、間違いないもんね。


「みなみちゃんは何をお願いしたの?」
「!!」


みなみちゃんの顔が真っ赤になった。


「み、みなみちゃん?!大丈夫?顔赤いけど・・・熱とか無い?」
「だ、大丈夫、悪い病気じゃないから・・・」


本当に大丈夫かな・・・


「・・・じゃあ、私がしたお願い、聞いてくれる?」
「うん。聞きたいな」
「私のお願いはね・・・」
「うん、うん」
「恋の病が、良い方向で進行すること」
「?って言うと・・・もっと好きになれますように、って事?」
「う、うん・・・それから、『その人ともっと仲良くなれますように』・・・」
「わぁ、みなみちゃん、好きな人居るんだ!」


初耳だった。みなみちゃんに想い人が居たなんて。
誰なんだろう。聞いてみたいけど・・・迷惑かな?


「うん・・・」
「どんな人?」
「私より背が低くて・・・周りに気が配れる良い人なんだけど、病気がちで放っておけない人」
「ふんふん」
「・・・ゆたかの事だよ」
「ふーん。・・・・・・・って、えええええ!!!」


顔が真っ赤になって、完全に思考回路が停止する。
ただただ立っていることしかできなくて、さっきの驚きの声に振り返る参拝客の視線も気にかからない。


「・・・今まで言えなかった・・・私が、ゆたかに告白したら、迷惑じゃないかな、って・・・今まで仲良くしてきたのに、その関係が壊れちゃうんじゃ、ないかって・・・」
「みなみちゃん・・・」


みなみちゃんの頬を伝う涙が重力に従って地に落ちて、見る間に砂利に吸い込まれていく。
初めて見るみなみちゃんの涙。


「ごめん、ゆたか。今の聞かなかったことに・・・」
「出来ないよ」
「・・・そう、だよね・・・」
「だって、私がみなみちゃんの事好きだったらどうするの?」
「!」
「私、愛とか恋とかよくわかんないけど、みなみちゃんのこと大好きだよ?この大好きがどこまでの大好きなのか、私にもわかんないけど・・・でも、これだけは言える。私はみなみちゃん大好きだから」


私の言える精一杯。
私の気持ちそのまま。


「じゃあ・・・・・・こうしよう?」
「うん」
「私は、みなみちゃんが大好き。みなみちゃんは私に恋してる」
「・・・うん」
「だから、私がみなみちゃんに恋したら、すぐに言うよ」
「・・・うん」
「だから・・・ずっと、ずーっと仲良くしてね、みなみちゃん」
「うん」


後はみなみちゃんの努力次第。言外にそう言ったつもり。
みなみちゃんの顔も多少明るくなった気がした。






「みなみちゃん!お姉ちゃんと柊先輩見つけたよ!」
「どこ・・・?」
「ほら、あっち。列から離れたあっちの方・・・あ!」
「あ、見つけた。・・・!?」
「・・・キス・・・」
「・・・邪魔しないようにしよう・・・か」
「そ、そうだね・・・ふぁっくしゅっ!」
「大丈夫?風邪引かないように・・・」
「大丈夫だよ、みなみちゃん。・・・心配してくれて有り難う。改めて、今年もよろしくね!みなみちゃん!」
「うん。こちらこそ、よろしく。ゆたか」
「じゃあ、そろそろ・・・」
「うん、帰ろっか」


行きより狭くなった二人の隙間。
駅に着くまでの間、自分でも気づかないほど自然に私たちは手を繋いでいた。


某所で投降したこなかがSSのゆたか視点です。
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