ゆたみなSS入学試験編

「止め」


試験官の声で一斉に、鉛筆を机にぶつける音が鳴り出した。声はしないのに、一斉に教室がうるさくなったような錯覚。
うう、心臓がドキドキ言ったままだよぅ・・・


「お疲れさまでした。これで試験は終わりです」





ふう。
心拍数が上がりっぱなしだと、頭に血が上るのか、目眩がしてきちゃう。
悪くなったときに備えて、一応トイレに来たけど。取りあえず大丈夫そう。
鏡を見てみると、そこには真っ青な自分の顔が・・・


「!!」


突然気分が悪くなってきた。
洗面台へ顔を近づける。
・・・大丈夫、大丈夫。
自分に言い聞かせる。
つ、と冷や汗が顔を流れる。
ハンカチ・・・ハンカチっと・・・
顔を下に向けたまま、片手をポケットに突っ込んで手探りでハンカチを探す。


ふ、と。


触られたのかどうかわからないほどの優しさで、肩に手が置かれた。


「!」


驚く私に声がかかる。


「大丈夫?」


凛とした、澄んだ声。
なんて格好良いんだろう。
私のなりたいとあこがれるタイプ。


「は、はい。大丈夫です・・・」
「ハンカチ使う?」
「あ、じゃあ、お言葉に甘えて・・・」


格好良くて、それでいて優しそうな目をした、背の高い素敵な人がそこに立っていた。


「保健室行こうか?」
「だ、大丈夫です・・・」


不快感はおさまっている。
それでも・・・
・・・ドキドキが止まらない・・・


「私、もう行くけど・・・一人で大丈夫?」
「はい。もう大丈夫です」


できるだけ笑顔で応える。心配かけたくなかったから。


「じゃあ」
「有り難うございました」


ぺこりとお辞儀を一つ。
格好良い人は後ろ手に手を振ってトイレを出て行く。
素敵だったなぁ・・・
あ、私も帰らないと・・・


「・・・ハンカチどうしよう?!」





「・・・ハンカチまで貸してくれて・・・」
「でもその子落ちてるかもよ?」
「そんなこと無いよ!ああいう人なら絶対受かってるよ!」


もう、お姉ちゃんひどい!
・・・でも、受かってる、受かってないに関わらず、また会えるような気がするんだ。
何て言うんだろう?知らない内に、見えない糸で結ばれたような・・・
誰かが「また会えるよ」って言ってくれるような安心感。


そして、押さえきれない高揚感。


何だろう、この気持ち・・・






今だったらわかるのかな?






「・・・なんか恥ずかしいね。会ったばっかりの頃の話って」
「そうだね」
「それから、制服の採寸会で会って・・・友達になれたんだよね」
「うん。・・・あの時は受験生じゃないのかと思ってて・・・ごめん」
「しょうがないよ、私ちっちゃいし・・・」
「大丈夫・・・まだまだ成長できる・・・」
「有り難う、みなみちゃん」
「いや・・・うん」
「私、みなみちゃんの友達になれて良かった。だって今、とっても幸せだもん」
「私も、だよ。ゆたか」
「じゃあ、これからもよろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしく・・・」



ここから桜は見えないけれど、微かに桜の香りが漂う季節。
私の、ううん、私たち二人の大学生活がこれから始まるんだ!
今はまだ、段ボールしか積まれていないこの部屋で。
私たちの新しい生活が・・・


リクエストがあったので書いてみました。
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