ゆたみなSS花火大会編

相当前に書いたものなので、少々おかしいかもしれませんが。



「ゴメンね、みなみちゃん」
「大丈夫・・・」


私は保険委員だもの。具合を悪くした人が居たなら、手当をするのが当然だ。
花火が上がる。
ドーン、と大きな音がした。


「綺麗だね」


膝の上に頭を乗せている、ゆたかが言う。


「うん」


同感だった。
ゆたかと一緒・・・大切な友達と・・・
それが、花火が一段と綺麗に見える原因かも知れない、と思った。





しばらくそうして時間が過ぎた。スケジュールでは、まだ15分ほど打ち上げが続く、とある。
いよいよ、大きく派手な花火が上がるだろう。


「ん」


そこで、ふと、私は太股の上に冷たい物を感じた。


「ゆたか、暑いの?」


浴衣に、汗が染みた後が見える。


「あ、ううん。別に暑くはないんだけど・・・」
「そう?なら、良いんだけど・・・汗、そのままにしておくと良くないから、拭くね」
「ふぇっ?!う、うん」


ゆたかの声が少し上擦った感じがした。何でだろう。
ハンカチを、上から当てるようにして拭いていく。決して肌をこすらない。



花火が上がる。



「ごめんね、みなみちゃん」
「・・・さっきもそう言ってた」


なぜ謝るのだろうか。


「迷惑じゃない?座ってるから、高く上がる花火じゃないと良く見えないし・・・」
「ゆたかは、寝てるからもっと見えないはず。それに・・・迷惑だなんて思ってないよ」
「・・・みなみちゃん」



再び花火。



それにしても、拭いても拭いても、ゆたかの汗が引く様子がない。
一応、ハンカチを団扇代わりに扇いでみることにした。


「本当に、暑くないの?汗が止まらないみたいだけど・・・」
「ううん!本当に暑くないから!扇いでくれなくても大丈夫だから!」
「でも、あんまり汗をかくと、血中のミネラルが失われていくから・・・原因がはっきりしないと汗は止められないし・・・」


心配で仕方なかった。



三度花火。



「んっ・・・実は、ね・・・」


ゆたかは原因に心当たりがあったらしい。


「みなみちゃんの、膝枕で寝てるんだって、思ったら・・・ドキドキが、止まらなくて・・・どんどん体が熱くなってきて・・・一緒にいるんだって、考えたら、嬉しくて、胸がキューンとなって・・・」


私の顔が赤くなった。
私がそこまで好かれていたなんて。驚きでもあり、嬉しいことでもある。
確かに、私がゆたかかに抱いていた感情は、一般的に言う「友達以上、恋人未満」に当たるものだった。それは認めよう。
しかし、恋愛感情まで昇華していたかと言われれば、そうとは言い切れなかったろう。
それなのに、ゆたかは私のことを「一緒にいると嬉しい」と言ってくれた。
私は・・・



いつの間にか、花火の打ち上がる間隔が短くなってきていた。もう数分でフィナーレだろうか。



「ゆたか・・・」


そっと、ゆたかの髪へ手を伸ばす。
サラサラの髪を優しくなでる。
ゆたかが「あっ」と、小さな声を上げた。
もう片方の手をゆたかの手に絡ませる。


「みなみ・・・ちゃん」
「私がそばにいるから・・・」
「うん」
「見て、ゆたか。花火が」
「わぁ!」



次々と打ち出される花火が、重なり、混じり合い、複雑な形と色を作って行く。
そのたびに、ゆたかの顔が明るく照らされる。
最後の1発。
特大の花が1輪。夜空に咲いた。



「綺麗だったね」
「そうだね。でも・・・ゆたかの方が綺麗だよ」
「・・・恥ずかしいな。そういう風に言われたこと無いから・・・でも、有り難う!・・・嬉しいなぁ・・・」


私の膝の上では、ゆたかの笑顔が花開いた。



「おーい、ゆたかちゃん、みなみちゃん」
「あ、お姉ちゃん達!」
「ゆたかちゃん達はどぉ?蚊に刺されなかった?」
「ううん、私たちは刺されなかったよ?」
「あー、やっぱり蚊に刺されにくい人って居るよね」
「いやー、蚊も空気を読んだんじゃないの?」
(読まずに刺しに行ったら、仲間にフルボッコにされるだろうなぁ)





「それではそろそろ帰りましょうか」


みゆきさんがそう言うのをきっかけに、みんな時計を眺めたり、眺めなかったりしながら、足が駅へと向かう。


「もうこんな時間かぁ」
「時間が経つのって早いわね、そう思わない?」
「何で私に振るかナ?」
「タノシかったですネ♪」
「また来年も来ようね」
「じゃあもっと、体丈夫にしなきゃ」
「・・・無理する必要無いよ、ゆたか」
「有り難う、みなみちゃん」


私は、いくつかの意味で、ゆたかの手を取った。
人混みではぐれないように。それから・・・


「保険委員の私がついてるから。保険委員とかでなくても」
「うん」


普段は冷ためのゆたかの手が、この時は温かかった。





「い、泉先輩、ティッシュ持ってませんか・・・?」
「どうしたのひよりん、鼻押さえて。持ってないけど」
「あ、私持ってるわよ。どうしたの?鼻血?」
「え、ええ。まあ・・・かたじけないッス、柊先輩」



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